タオを抱いたエスティ―シ

無数の
水滴に肩を抱かれて
渦を巻く
多数の黒星たちが
追いかけていた
顔の皮を剥がしては
月の光を浴びさせて
限りない水分を飛ばしてやった (それはまるで野兎の足取り)

(顔の無いわたしが迷い込む森がふたつのみありました。)
「どこに?」
「近すぎて、
(見えない)のです。」
『情けなし。』

森林の中で
葉に両腕を掴まれた
祈りの実が僕を責めたてる
それでも
顔をなくしたままで
土を掘り
どうしようもなく汚れを被った
詩の池で
生きたままの言葉を洗っていれば
清潔な言葉が
目を賢いものへと変えていく(池の中、獣として溺れる)

(赤くなる頬と
黒ずんだ青あざ
主に手を引かれる
はずの
由緒正しき
手のうちに )

懸命に命を使って詩を紡ぐ
収まらぬ熱に
絶えず肩で息をする  (ここでのみ生きられます。)
うだりいく大木におののき走り出せば
確かな黒い竜へとなっていく

「ねぇ、どこへ行く?」
「すべてに火をつけるのです。」
「優しい延命の音がある?」
(それを今から生むのです。)

『走れ、ヘヴン。』
立ち上がり、風を切った
散らばったページを縫い上げれば
白紙のような泉が僕の背を
絶えず濡らしていく(それこそ暖かい水だった。)

「震えぬ夜に、眠りにつけたなら。」
たゆたわぬものを教えてあげるよ。
「森林から生かす、この魂よ。」
お願いだから。
逃がしてよ  ねぇ、 僕たちの(エクスタシ。)
(それこれそが  アナクーフィシ  ?)

この魂が血のごとく迸るせいで
分散した憂鬱に長い間
尾を踏まれ
身体が重かったんだ(わたしにしか聞こえない透明の銃声)

悲鳴のカーテンのなか/視線を逸らし/
火にくるまりは/
車輪のごとく/走り抜け/
骨を軋ませ/
海のなかで『お泣きなさい。』
「俗物と目が合ったのです。」

弓のように身体をしならせ
嘆いていたのは
おそらく
目に刺さった矢を
抜いてほしかったからである
カルスたちのささやきに耳を塞ぎ
(過去という名の泡)に足をばたつかせる

「どこにいる?」
「矢は朽ちていました。」
「寂しい片手、青の口。」
さようなら、僕のネオ
頭を垂れる水仙からの一心の接吻を拒み
鱗粉を殴って鼻を擦った

山の焼却炉に溢れんばかりに
詰められた白骨を横目に
シャボンで湿ったシャツの袖口で
タオの額の血を拭いてやる

(もっと、   近くにおいで。
この こころ の中に来るといい。)

すべてのタオが揺れていて
池の鏡が地に垂れる僕の髪を
掴んで吸い込んでいく
(咲き乱れ終えた花の蜜のかほりは堕落)

両足を抱えて僕を運び続ける
(黒い血の目)に力なく、腕を垂らした
「僕のネオ…。」(ネオのわたし…。)
とめどなくあふれる涙に
世界の色を感受できなくなっていた(いばらの冠のたたずまい。)

(海岸へと、詩とともに、遠くへ行けたらば。)
聖水が生まれた時から鼻につまっているのだそうだ
「息なんざ、
やはり生まれたころからできんのです。」
(また、 わたしの胸で泣きたいの ね?)
「ねぇ、お願い。
また、歯を見せて笑うから。」
(背を向けて、一房の心音を捨てたのです。)
『・・・。』

拍手の種をばらまきは
僕の胸をつたって
水が駆け抜けていく
水の中で目が合っても、
唇を結んで手を離す
そのネオの死骸を埋めるため
穴を掘り続けていた
樹木を抱いて
嗚咽を漏らし
濡れる土を
たしかに踏みつけている
散り行く葉脈の賛美
死に行く頼りなき枝木の瞬き
(降り注ぐ光という名の恵みここにあり。)

肩を抱かれる
僕らのタオよ
もっと
ここへ
来るがいい

(たゆたわぬものを編んでいこう
きっと
おそらく
ひとつとなって
主に手を引かれては、
眠るネオに
揺さぶられ、

手を伸ばす先には…)

「 それこれそが

サンクチュアリの

αισθάνονται  ?」